ひょんなところで四手井綱英氏。

d0060094_984149.jpg 昨夜テレビのリモコンでチャンネルをパカパカ変えているうちに、めったに見ることはないのだが、「探偵ナイトスクープ」で指が止まった。
 車椅子に身を預け、酸素吸入チューブをつけたお年寄りを前に、レポーター(お笑い芸人だと思う)が、森林学者四手井綱英(しでい つなひで)氏の著書を紹介している。マイク片手に「この本を書いたの?」とか年寄りに聞いているのだ。よく見たら、その年寄りがおお、ご本人ではないか! テレビで見るものには大して動じないように心がけているが、久しぶりに驚いた。だいぶ弱ったそのお姿に。そしてなぜバラエティ番組に?という疑問。
 四手井氏は京都大学出身である。登山の仲間は今西錦司、いもヅル式に中尾佐助、梅棹忠夫と、そうそうたる京大フィールドワーカーの名前が浮かぶ。林学に限って言えば、高橋「どろ亀」延清氏を頂点とする東京大学農学部とともに、日本の森林研究の双璧。
 研究分野以外に森の詩人として多くの著書を残し、白州正子女史と交遊のあった、誤解を恐れず言えば華やかなノブキヨ氏に対比して、四手井氏は野武士の気骨を感じる学者である。ポートレイトを見ても「寄らば斬る」とどこか言っているような(笑)。
「森の人 四手井綱英の九十年」(森まゆみ・晶文社)を改めて手にとる。ご本人によるあとがき、「二十一世紀に生きる人へ」の中に、涙目になってしまう忘れられない下りがあるのだ。
〈よく私に次の世紀に何を望みますかと聞く人がある。私は二十一世紀に何を望むかではない、次の世紀を生きる人々には「あやまる」ことしか残さなかったと答えている。悪化した森林や自然をこのままにして、私はこの世から去らねばならない。努力はしたが、何もならなかった。それほど日本ばかりでなく地球の自然は壊れてしまった。私たちが「壊した」といった方がいいだろう。まことに申し訳ないと思っている。みなさんの手で地球を十分に守れる、もっとよい森林にしてくださいとお願いするしかない〉
 今日も落涙はこらえたが、やはり景色が歪む。出版は2001年。この本は、森とともに、人のほぼ限界に近い年まで生きた学者の遺言なのだ。もちろん、森まゆみという優れた聞き手なくしてこれだけ説得力に満ちた書にはならなかった。
 番組は最初から見ていた訳ではないのだが、四手井氏が少年時代にお姉さん(故人)から教えられた思い出の童謡、その題名や、どういう歌だったのかを調査してほしい、という主旨のようだった。たぶんご家族からの依頼。
 番組はともかく、御年95歳。大樹がいま、生涯をまっとうして倒れかけている姿に、一抹の悲しさはもちろんあれど、はっきりと感動を覚えたのだった。
 
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by columnbank | 2006-08-05 09:51 | いろいろ
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