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お知らせ〜当家営農のこれから。

お知らせ〜当家営農のこれから。_d0060094_04425521.jpg【そして 大切なお知らせ】

さて。今季はこれまでにないお知らせも一つございます、どうかお聞きください。
わたくしめ、ワタナベが手を下しお米を生産するのは、来年と再来年の2回を限りとして最後になるでありましょうことをお知らせいたします。おそらく、2023年をもってひと区切りに。2024年以降は農地主ではあり続けるものの、耕作は地区で大規模農業を目指す生産者に委ねる話が進んでおります。長くなりますが、その事情を以下に記しました。見出しだけお読みになっても、だいたいはおわかりいただけると思います。

1.現状は。…… [圃場(田んぼ)はボロボロ満身創痍。]
2.なので。…… [地区農地主の総意によって県(公費)での圃場整備事業が進められています。]
3.当然に。…… [農地主も事業費を一部負担しなければなりません(重い!)。]
4.なれば。…… [農地主の負担割合を下げる条件〜大規模な耕作者への作業集積と引き換えに〜が用意されています。]
5.自営は。…… [大区画となる新圃場、現有の小さな農機ではとても歯が立ちません。]


1.現状は。…… [圃場(田んぼ)はボロボロ満身創痍。]
 昭和30年代から40年代にかけて整備された田んぼは半世紀以上が経ち、農道や水路までも至るところで崩壊を繰り返しています。川から水を汲み上げる揚水機場などの水利施設も老朽化が進み、トラブルが増える一方です。

2.なので。…… [地区農地主の総意によって県(公費)での圃場整備事業が進められています。]
 個人の土地だけで生産が完結する畑と違って、田んぼは一つの水系を共有します。地区約180ヘクタールの農地主の総意によって、それらもまるごと造り変える県営圃場整備事業が、数年前から動き出しました。一枚一枚の田んぼを大きな区画に、高低差を精密に。飛び石のように散在する農地主それぞれの田んぼは一カ所に。農道は広く堅固に、水路も大小を引き直しポンプなども一新する計画です。

3.当然に。…… [農地主も事業費を一部負担しなければなりません(重い!)。]
 上下水道などと同様、受益者である農地主は費用を手出ししなければなりません。試算では10アール当たりの事業費が190万円ほど、農地主の自己負担は1割の19万円。参考までに当家の田は140アールなので、19万円×14=266万円を、十数年かけて償還していかなくてはなりません。軽い、とはとても言えない負担です。

4.なれば。…… [農地主の負担割合を下げる条件〜大規模な耕作者への作業集積と引き換えに〜が用意されています。]
 地区内に100数十人いる小規模な農地主は、その耕作作業を、大規模農業を目指す生産者(「担い手」と呼ばれます。農業法人など形態はさまざま)に委ねてください、ということ。整備される圃場総面積の8割以上について、耕作を5つの生産者に集約すれば、農地主各々の自己負担率が1割よりもさらに下げられるのです。財布の紐を握る方々が考えた、農地主よりも「活用し食糧供給に貢献する者をこそ」補助していく「選択と集中」施策の一環と言えるでしょう。

5.自営は。…… [大区画になる新圃場、現有の小さな農機ではとても歯が立ちません。]
 新しくなる圃場で、わたくしがこれまでのように営農を続けたらいぃんじゃね?……という考え方もありましょう。それは「総意」に反し、「担い手」への集積率を下げてしまうことになります。
 加えてハードの壁も厳然と存在します。100m四方もの田んぼを2センチ以内の高低差に、何年も保ち続けるにはGPSを備えたトラクタでなければなりません。刈り始めて1周もしないうちにタンクが満杯になってしまうコンバインでは、(稲を踏んづけないと)籾を運搬するトラックまで帰れません。大きな圃場には見合った性能の農機が必須。1台1000万円を超えるコンバイン、トラクタをはじめとする機器を買い揃えることは不可能です。よしんば採れた米を、農協出荷を通さず採算価格ですべて売り切ることは極めて難しく、それだけの気力労力も、残念なことにわたくし自身は持ち得ておりません。誠に持って不甲斐ない有様ですが、ごめんなさい。

 以上 本家筋から分かれて、わたくしで五代目。この国の農食の環境、その流れは速く大きく重く、勢いをともなって転がり続けています。大きな変わり目を迎えていることは違いないのですが、それがどのような未来を連れて来ようとしているのか読みきれません。国内の食糧生産力の低下に警鐘を鳴らす識者やジャーナリストはおられます。気候変動、政情、覇権争いと戦争、「食に苦しむ国」へ突き進む怖さを……。一方で、「食料だけ入ってこない、という状況はありえない。石油などと一緒に入って来なくなる。だからこそ、エネルギー資源と食料の生産国と良好な国交を保ち続けることこそ現代の食糧安全保障」と譲らない人も多数に上ります。食糧がまったく輸入されない、という状況にはなってませんが、時刻優先の上に国交のカードにされて高騰する食糧、食材は増える一方なのですがどうなのでしょうね。
 農の当事者として末席に居りながら、小さいながらもはたらきかける力が私自身には乏しいことを、実は恥じております。

 当方の作は徹頭徹尾、ふつうの米でしかないのですが、それを何回も、何年も買い求めてくださる各位に対し、ありきたりに感謝を申し述べることしかできないことを口惜しく思うております。今季を含めて、わたしが提供できる出来秋、あと3回。どうかご賞味くださいまし。

わたなべ 謹白

by columnbank | 2021-10-12 04:23 | いま田んぼでは2021
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